お祭り用品の定番である法被や鯉口シャツなどはいろいろな染め方で制作されています。中でも、一番最新の染色技術がインクジェット染色です。正式名称はインクジェットプリント捺染です。
もともとお祭り用品は本染めと呼ばれる日本古来の染色技法で作られていました。本染めは職人さんが生地を手作業で染めて作っています。
長年の経験と勘が必要になるため、最近では若い人の後継者が減り、職人さんの高齢化が進んでいます。そのため、廃業する染色工場も増えてきており、だんだんと本染めのお祭り用品の入手が難しくなってきました。
そこで登場したのがインクジェット染色です。最新の機械を使って染める染色技法で、法被や鯉口シャツ、祭り小物もインクジェット染色で作られているものが増えてきています。
この記事ではインクジェット染色がどのような染め方なのか解説しています。また、インクジェット染色のメリットとデメリットを紹介したうえで、どのような人がインクジェット染色が向いていて、どのような人が向いていないのかについても解説しています。
オリジナルのお祭り用品を制作する時の参考にしてください。
ちなみに、インクジェット染色以外の染色技術について、別の記事で詳しく解説しています。お祭り用品がどのような染め方で制作されているのか知りたい人は、ぜひ関連記事をご覧ください。
目次
インクジェット染色の特色
まずはインクジェット染色とはどのような染色技術なのかについて解説します。インクジェット染色でお祭り用品を制作する時の作業工程についても説明します。
インクジェット染色とは?
インクジェット染色とは、生地専用のインクジェットプリンターで白色の生地に染料を吹き付けて染める技法です。
紙に印刷する家庭用のインクジェットプリンターと仕組みは同じです。染料を生地に吹き付けることでフルカラーで染めることができます。染料は本染めで使用する生地用の顔料染料を使用しています。
綿素材の生地だけでなく、ポリエステルなどの化繊素材の生地に染めることも可能です。着物のような風合いの法被を作ることができます。よさこい祭りの踊り子さんたちが着ている着物のような派手なポリエステル素材の法被は、このインクジェット染色で作られたものが多いです。
インクジェット染色の製作工程
インクジェット染色で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】デザインデータを作る
インクジェット染色には本染めで使用されるような型は必要ありません。法被や鯉口シャツのデザインをパソコンで制作します。パソコンで制作したデザインがそのまま生地にプリントされます。
【2】染める
生地専用のインクジェットプリンターで白色の生地に染料を吹き付けます。フルカラーで生地を染めることができます。
【3】乾かす
高温のボイラーで染料を乾かします。本染めの生地は屋外で天日干しが必要ですが、インクジェット染色は室内で乾かすことができます。そのため、天候に左右されず生地を作ることができます。
【4】完成
生地が乾いたら、完成です。
どんなお祭り用品が作れるの?
生地を使って制作されるお祭り用品でしたら、何でもインクジェット染色で制作することが可能です。インクジェット染色で制作可能な主なお祭り用品をご紹介します。
法被・半纏
インクジェット染色で制作する定番のお祭り衣装といえば法被や半纏です。細かい柄もフルカラーで染めることができるので、総柄などの複雑なデザインの法被に向いています。
鯉口シャツ
最近では鯉口シャツもインクジェット染色で作る人が増えてきました。インクジェット染色なら、背中に大紋(マーク)が大きく入った総柄の鯉口シャツも制作できます。自由なデザインの鯉口シャツが増えています。
ダボシャツ・ダボズボン
インクジェット染色ならおそろいのデザインのダボシャツとダボズボンを制作することができます。上下でデザインが繋がっているようなデザインで制作することも可能です。
角帯・平ぐけ帯
インクジェット染色で帯を作ることもできます。神輿会や町会などの大紋やマークを入れたりして制作します。
バンブー手提げバッグ
衣装だけでなく、お祭り小物もインクジェット染色で制作することができます。生地からオリジナルデザインで制作するので、思い通りのデザインのお祭り小物を制作することができます。お祭り小物の中でも特に人気なのが、バンブー手提げバッグです。
インクジェット染色のメリット
インクジェット染色は日本の伝統的な染色技術である本染めでは実現不可能なことでも実現できてしまうメリットがあります。主なメリットを3つ紹介させていただきます。
1個から作れる
インクジェット染色の一番のメリットがオリジナルデザインのお祭り用品が1個から制作できるということです。
本染めのお祭り用品ですと、最低ロットがあるので、たとえば法被は5枚以上じゃないと注文できなかったり、鯉口シャツは20枚以上じゃないと注文できなかったりします。
しかし、インクジェット染色なら法被1枚分や鯉口シャツ1枚分の生地を染めることができます。小ロットに対応できるのがインクジェット染色の一番の魅力です。
最近では少子化の影響でお祭りに参加する人も減ってきました。新たにお祭り団体に加入する人も少ないので、追加でオリジナルの法被などを注文しようと思っても、最低ロット分の注文数が集まらなくて、なかなか追加注文ができないということも起きているようです。
その点、インクジェット染色なら1枚から法被などを注文することができるので、新しいお祭り参加者が1名だけという場合でも、気軽に法被などの追加発注ができます。
また、大量に法被や鯉口シャツなどを注文する前に、どんな仕上がりになるのか実物を見てみたいという要望がある場合、見本で1枚だけ作ってみるということにもインクジェット染色は使われています。
オリジナルデザインのお祭り用品を1枚だけ、1個だけ作りたい人はインクジェット染色が向いています。最低ロットが1個からなので、追加注文も気軽にすることができます。
複雑なデザインがフルカラーで作れる
インクジェット染色の2つ目のメリットが複雑なデザインのお祭り用品が制作できることです。
日本の伝統的な染色技法である本染めの場合、染めることができる色数は最大でも3~5色程度です。一方、インクジェット染色はフルカラーで染めることができます。極論を言えば、顔写真なんかもカラーで染めることができちゃいます。
また、本染めの場合は細い線が多いデザインや色の濃淡が重なりあったりするようなデザインは染めるのが不可能でした。インクジェット染色なら複雑な絵の描いてあるようなデザインでもきれいに染めることができます。
色数が多い、複雑なデザインのお祭り用品を作りたい人はインクジェット染色が向いています。特に写真や絵画のようなデザインが入ったお祭り用品を作るなら、本染めでは実現不可能なため、インクジェット染色一択になります。
納期が早い
本染めは職人さんが生地を1枚ずつ手作業で染めます、また、作業工数も多く、各工程が別々の工場で分業化されているので、どうしても生地を染めるのに時間がかかってしまいます。
これに対し、インクジェット染色は手作業ではなく機械で染めます。一か所の工場で流れ作業で生地が染められるので、短期間で生地を染めることが可能です。
また、本染めは屋外で天日干しする必要があるので、納期が天気に左右されます。梅雨や台風のシーズンで雨が続くと、完成までにかなり時間がかかってしまうことがあります。
これに対し、インクジェット染色は天日干しではなく乾燥機で染料を乾かすため天気に左右されません。混み具合にもよりますが、本染めよりも短期間で生地を乾かすことが可能です。
納期を急いでいる人はインクジェット染色が向いています。本染めですと最短でも1~2ヵ月ほど染めるのに時間がかかりますが、インクジェット染色は2~3週間ほどで染めることが可能です。
※納期は混み具合や生地の在庫状況によって異なります。お急ぎの方は必ず注文前に納期を確認するようにしてください。
インクジェット染色のデメリット
たくさんの魅力があるインクジェット染色ですが、もちろんデメリットもあります。インクジェット染色よりも本染めでお祭り用品を制作した方がいい人もいますので、インクジェット染色のデメリットについても説明させていただきます。
きれいすぎる(味が無い)
インクジェット染色の一番のデメリットが完成品がきれいすぎることです。日本の伝統的な染色技術で染めた本染めのお祭り用品と比べると、染め物特有のにじみや色ムラがないため、生地に味がありません。
インクジェット染色は機械で染めるため、どうしても人間味のある風合いがでません。昔ながらの風合いのある染め物のお祭り用品が欲しい人にはインクジェット染色は不向きです。
また、インクジェット染色は生地の表面しか染めることができないため、生地の裏は無地の白色になります。注染などの本染めですと、生地の裏まで染料が通るので、裏表使用することができます。しかし、インクジェット染色で染めた生地は表面しか使用することができません。
日本の伝統的な染め物の風合いが好きな人にはインクジェット染色は向いていません。色ムラや染めムラがないので、完成品がきれいすぎてしまいます。
真っ黒での染色が難しい
インクジェット染色はプリンターの特性上、真っ黒に染めることが難しいです。白い生地の表面だけ染めるので、どうしても黒色が若干グレーっぽくなってしまいます。
4~5年前に比べれば、技術が向上しているので、かなり濃く黒色を染められるようになってきましたが、まだまだインクジェット染色は黒色が苦手です。漆黒の黒などのように黒色を特に重視される人にはインクジェット染色は向いていません。
真っ黒なデザインのお祭り用品が欲しいなら、硫化染めなどの本染めで制作することをおすすめします。
真っ黒な色のお祭り用品を作りたい人はインクジェット染色は向いていません。機械の特性上、どうしても真っ黒ではなく、若干グレーぽっくなってしまいます。黒にこだわる人はインクジェット染色ではイメージ通りに作ることができません。
大量注文でも値段が変わらない
インクジェット染色は生地を1枚ずつ染めていくので、大量注文の場合でも手間が同じです。そのため、小ロットで注文した場合と、大量ロットで注文した場合で値段があまり変わりません。
一方、本染めは何十枚もの生地をまとめて染めることができます。そのため、注文数が多ければ多いほど1枚あたりの生地の単価が安くなっていきます。法被や鯉口シャツを50枚や100枚以上など大量に作る場合は本染めの方がリーズナブルになります。
大量のお祭り用品をリーズナブルに作りたい人はインクジェット染色は向いていません。インクジェット染色は小ロットの制作にはメリットがたくさんありますが、大量ロットの注文ですと、メリットを活かすことができません。
洗濯してもにじまないの?
インクジェット染色と聞くと、紙に印刷する家庭用のインクジェットプリンターを連想して、「水に濡れると染料がにじんでしまうのでは?」と心配される方がいらっしゃいます。
でも、ご安心ください!!
生地用のインクジェットプリンターで使用する染料は簡単に色落ちしません。雨に濡れたり、洗濯したりしても、色がにじんでしまう心配はありません。
生地用のインクジェットは、染める工程は機械を使って行いますが、使用している染料は本染めと同じものです。なので、インクジェット染色で染めた生地は本染めで染めた生地と同じような仕上がりになります。職人さんが手で染める時に使用している染料と同じものを使用しているので、色落ち具合は本染めの法被と同じです。
ただし、顔料系の染料を使用しているため、漂白剤を使用すると色がはげてしまいます。インクジェット染色で制作したお祭り用品は漂白剤を使った洗濯はできませんのでご注意ください。
漂白剤を使用したら、生地が真っ白になってしまった・・・なんてことにもなってしまいますので、十分ご注意ください。
オリジナルデザインのお祭り用品がオーダーできるお店
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オリジナルデザインのお祭り用品を作りたいなら、ぜひ祭り用品専門店の祭すみたやにご相談ください。毎年1,000~2,000枚のオリジナルデザインの法被をオーダーメイドで制作している実績があります。豊富な経験があるので、あなたのイメージに合ったデザインのお祭り用品をご提案させていただきます。ご気軽にご来店ください。
祭すみたや 助信駅前店
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