お祭り衣装の定番といえば、鯉口シャツです。鯉口シャツの読み方は「こいくちしゃつ」です。地方によっては肉襦袢(にくじゅばん)やダボシャツとも呼ばれています。
お祭りに参加している人たちを見てみると、みんながおそろいのデザインの鯉口シャツを着ていることがあります。町会や神輿会などの団体によっては、オリジナルデザインの鯉口シャツで統一しているところもあります。
そんな鯉口シャツですが、反対向きになっている文字が混ざっているデザインをたまに見かけます。下の写真の鯉口シャツを見ていただくと、「松尾社」と普通に読める文字の他に、松尾社の文字が反対向きになっているものが含まれていることに気づくかと思います。
この反対向きになっている文字のことを鏡文字といいます。鏡に映した文字のように、向きが逆になることから、このように呼ばれます。
鯉口シャツに鏡文字が混ざっていると、普通に読むことができないので、不良品なのでは!?とクレームを言ってくるお客様がたまにいらっしゃいます。
でも、鏡文字が混ざっていても、不良品ではありませんのでご安心ください。
この記事では、なぜ鯉口シャツに鏡文字が混ざってしまうのかについて解説しています。鯉口シャツの制作の工程上、どうしても鏡文字を混ぜないといけない理由があるんです。
ぜひこの記事を最後まで読んでいただいて、鯉口シャツの豆知識を増やしてくださいね。
目次
鏡文字が混ざっている鯉口シャツとは
下の2枚の鯉口シャツの写真を見てみてください。
同じようなデザインの鯉口シャツですが、【1】の方は鏡文字が混ざっていて、【2】の方には鏡文字が混ざっていません。
鏡文字を混ぜなくても鯉口シャツが作れるなら、全部鏡文字を混ぜずに作ったらいいじゃん!って思う人がいるかもしれません。
でも、実はこれ、生地の染色方法が異なるんです。
【1】の鯉口シャツは注染と呼ばれる染色方法で制作されています。注染の読み方は「ちゅうせん」です。注染の鯉口シャツの場合は鏡文字を混ぜる必要があります。
そして、【2】の鯉口シャツはプリント捺染と呼ばれる染色方法で制作されています。捺染の読み方は「なせん」や「なっせん」です。プリント捺染の鯉口シャツの場合は鏡文字は不要です。
注染の鯉口シャツに鏡文字が必要な理由
注染の鯉口シャツには必ず鏡文字を入れる必要があります。その理由は注染の生地の制作工程にあります。
注染の鯉口シャツの生地は反物生地と言われる、幅が約30cm、長さが約22mくらいの生地に染めていきます。この長い反物生地を1mおきに折り返しながら畳んだ後、その上から染料を流し込んで制作します。
そのため、1段目のような奇数段と2段目ような偶数段の生地の柄が反転してしまいます。
注染で制作した生地は表と裏の区別がなく、両面とも使用するリバーシブル生地です。
もし注染の生地の柄に鏡文字を入れないと、鯉口シャツの形にしたときに、鯉口シャツの後ろ面の文字はすべて読める方向になっているけれど、鯉口シャツの前面はすべて鏡文字になってしまう・・・なんてことがおこってしまいます。
そのため、注染で鯉口シャツの生地を制作する時には、反物生地の1mの範囲内で普通に読める向きの文字と鏡文字をまんべんなく入れる必要があるんです。
鏡文字を混ぜることで、鯉口シャツを前から見た時も、後ろから見た時も、両方同じ柄になるんです!そんなわけで、注染の染色方法で鯉口シャツを制作する時は、あえて鏡文字を混ぜています。
プリント捺染の鯉口シャツに鏡文字が不要な理由
プリント捺染の鯉口シャツには鏡文字が不要です。
プリント捺染の生地も注染の生地と同様に、幅が約30cm、長さが約22mの反物生地に染めて制作します。でも、プリント捺染の場合は、注染と違って、染める時に生地を1mおきに折りたたむ必要がありません。
生地を伸ばしたあと、端から順番に染料をプリントしていきます。
そのため、プリント捺染の生地は柄が染まっている表面と、柄が染まっていない無地の裏面があります。
鯉口シャツに加工する時は柄が染まっている生地の表面しか使用しません。ですので、プリント捺染の鯉口シャツの場合は、わざわざ鏡文字を入れる必要がないんです!
鯉口シャツの染色方法の詳細については別の記事で詳しく解説しています。注染とプリント捺染の染色工程の詳細について知りたい場合は、ぜひ関連記事をご覧ください。
注染とプリント捺染どちらの染め方がいいの?
注染の鯉口シャツには鏡文字が必要で、プリント捺染の鯉口シャツには鏡文字が不要な理由がご理解いただけたでしょうか。
それでは、注染とプリント捺染、どちらの染め方が鯉口シャツにおすすめなのでしょうか?
結論からいいますと、好みと生地の使用用途によって異なります!
注染の鯉口シャツが向いている人
注染の鯉口シャツをおすすめするのは、昔ながらの伝統的な鯉口シャツが好きな人です。
注染で染めた生地には独特の優しい風合いがあります。制作の工程上、どうしても注染の生地には染ムラや染料のにじみが出てしまいます。柄や文字の線がボヤっとして、太さも一定にはなりません。この手作り感が何とも言えない伝統的な風合いを醸し出しているんです。日本の伝統的な染色技術が好きな人には注染がおすすめです。
また、注染の生地は裏まで染料が通っているので、表裏がなく、両面使用することができます。そのため、鯉口シャツだけでなく、手ぬぐいとしても生地を使用したい人には注染がおすすめです。
ちなみに、注染は制作工程が多く、制作することができる職人さんも減ってきているので、金額はどうしても高額で納期も長くなってしまいます。
プリント捺染の鯉口シャツが向いている人
プリント捺染の鯉口シャツをおすすめするのは、細かいデザインを綺麗に染めたい人です。
注染は制作工程上、どしても染ムラやにじみが出てしまうので、細かいデザインには向いていません。一方、プリント捺染の鯉口シャツは染ムラやにじみが少ないので、細かい線や小さな文字で綺麗に染めることができます。柄や文字の線もキリっとしていて、太さも一定です。染ムラやにじみが出るのが嫌な人はプリント捺染がおすすめです。
また、鏡文字が入ってしまうのが嫌な人にもプリント捺染がおすすめです。
ただし、プリント捺染は生地の裏面まで染料が通らないので、裏面は無地になってしまいます。ですので、鯉口シャツの生地を手ぬぐいとしても使用したい人にはプリント捺染はあまり向いていません。
ちなみに、プリント捺染は制作工程が少なく、機械でも染めることができるので、価格はリーズナブルで納期も短いです。
オリジナル鯉口シャツが注文できるお店
オリジナルデザインの鯉口シャツは祭り用品専門店の祭すみたやで注文することができます。祭すみたやでしたら、注染の鯉口シャツもプリント捺染の鯉口シャツも、どちらの制作することができます。お客様のご希望に合わせた染色方法をご提案させていただきますので、オリジナル鯉口シャツを制作したい方は、ぜひご相談ください。遠方でご来店できない人でも、メールのやり取りのみで制作することも可能です。
祭すみたや 助信駅前店
〒430-0911 静岡県浜松市中央区新津町14-1
電話 053-489-3398
メール info@sumitaya.co.jp
ちなみに、オリジナル鯉口シャツの制作の流れについては別の記事で詳しく解説しています。どうやって鯉口シャツを作っていくのか知りたい人は、ぜひ関連記事をご覧ください。