お祭りで使用する法被や鯉口シャツ、手ぬぐいは日本の伝統的な染色技法で生地を染めて制作します。白い生地にオリジナルのデザインを染めるのですが、染色技法にはいろいろな種類があります。
法被や手ぬぐいを作る時の主な染色技法には次のような染め方があります。
- 反応捺染
- 引き染め
- 注染
- 抜染
- プリント捺染
- 藍染め
- シルクスクリーンプリント
- インクジェット染色
この記事では、それぞれの染色技法がどのような作業工程で制作されるのか初心者向けに分かりやすく解説しています。
目次
反応捺染
反応捺染とは
反応捺染(はんのうなせん)とは、白い生地に型(かた)を当てて、ヘラで染料を生地に押し当てて染める技法です。反応染め(はんのうぞめ)や捺染(なせん)とも呼ばれます。
色数が少なく、細かいデザインの法被や手ぬぐいに向いている染め方です。
生地の裏まで染料が通らないため、裏面は白無地になります。
反応捺染の作業工程
反応捺染の技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
法被や手ぬぐいのデザインに従って型を作ります。染めたい部分(色を付けたい部分)をくり抜きます。
【2】染める
白い生地の上に型を置きます。型の上から染料を流し、ヘラで染料を生地に押し当てていきます。
【3】蒸す
染料が乾いたら、染料を生地に定着させるために蒸し器で蒸します。
【4】洗う
生地が蒸し終わったら、余分な染料を洗い流します。
【5】乾かす
生地を天日干しで乾かします。
【6】完成
生地が乾いたら、完成です。
引き染め
引き染めとは
引き染め(ひきぞめ)とは、白い生地に糊(のり)を塗ったあと、生地に染料を刷毛(はけ)で塗って染める技法です。糊(のり)を付けた部分は染まらずに白く残ります。法被や手ぬぐいを1枚ずつ染めていきます。
職人さんが刷毛(はけ)を使って染色するので色数が多い法被や手ぬぐいに向いています。また、漁船の大漁旗も引き染めの染色技法で染められています。法被や手ぬぐいを1枚だけ制作するといった、小ロットに向いている染め方です。
生地の裏まで染料が通ります。
引き染めの作業工程
引き染めの技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
法被や手ぬぐいのデザインに従って型を作ります。染めたくない部分(色を付けずに白色のまま残す部分)をくり抜きます。
【2】糊置きする
白い生地の上に型を置きます。型の上から糊(のり)を流し、ヘラで糊(のり)を生地に塗り付けていきます。糊(のり)が付いている部分は白色のまま残ります。
【3】刷毛(はけ)で染める
染料を付けた刷毛(はけ)で生地を染めていきます。
【4】水洗い
刷毛(はけ)で染め終わったら、すぐに水洗いします。糊(のり)や余分な染料を洗い流します。
【5】乾かす
生地を天日干しで乾かします。
【6】完成
生地が乾いたら、完成です。
注染
注染とは
注染(ちゅうせん)とは、白い生地に糊(のり)を塗ったあと、生地に染料を注いで染める技法です。糊を塗った部分が染まらずに白く残ります。生地の裏までしっかりと染料が通るので、表と裏で色の濃さに違いがありません。
細かいデザインには不向きですが、風合いがよく、生地も柔らかくなるので、鯉口シャツや手ぬぐいに向いている染め方です。ただし、染色の工程上、どうしても色ムラや染ムラがあります。このムラに職人さんの手作業の人間味が出ているので、注染の風合いが好きという人も多いです。
お祭りで町会や神輿会などから配られる手ぬぐいは注染で染めているものが多いです。
生地の裏まで染料が通ります。
注染の作業工程
注染の技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
手ぬぐいのデザインに従って型を作ります。染めたくない部分(色を付けない部分)をくり抜きます。
【2】糊付け
白い生地の上に型を置きます。型の上から糊(のり)を流し、ヘラを使って染めたくない部分に糊を付けます。
【3】生地を重ねる
注染は生地を反物単位でいっきに染めます。そのために生地を重ねます。
【4】糊付け
再び型を生地の上に置き、糊を付けます。3と4の工程を何度も繰り返します。
【5】染める
生地を重ねて、糊を付ける工程を繰り返したら、染料を生地の上から注ぎ込みます。染料を下から吸い出すことで、一番下の生地まで染料が通るようにします。
【6】洗う
糊と余分な染料を水で洗い流します。何度も洗うので、生地が柔らかくなります。
【7】乾かす
生地を天日干しで乾かします。
【8】完成
生地が乾いたら完成です。
抜染
抜染とは
抜染(ばっせん)とは、色がすでに入っている生地に色を抜く特殊な薬品を塗り、その部分を白くする技法です。一般的に染色というと、白い生地に色を付けて柄や家紋などのデザインを染めることを想像するかと思いますが、抜染は逆になります。黒や赤などの単色の生地を脱色することで、柄や家紋などのデザインを出します。
単色の法被や手ぬぐいの一部に白色でデザインを入れたい場合におすすめの染め方です。
抜染の作業工程
抜染の技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
法被や手ぬぐいのデザインに従って型を作ります。色を抜きたい部分(白色にしたい部分)をくり抜きます。
【2】抜染糊付け
すでに色が入っている生地の上に型を置きます。型の上から抜染糊(ばっせんのり)を流し、ヘラを使って色を抜きたい部分に抜染糊を付けます。
【3】抜染糊を乾かす
抜染糊を乾かします。
【4】蒸す
抜染糊が乾いたら、蒸し器で生地を蒸します。
【5】洗う
生地を蒸したら、色止め剤の中に付け、水で抜染糊を洗い流します。
【6】乾かす
生地を天日干しで乾かします。
【7】完成
生地を天日干しで乾かします。
プリント捺染
プリント捺染とは
プリント捺染(なせん)とは、小幅(幅:約30cm)や広幅(幅:約100cm)の白い反物生地に型(かた)を当てて、ヘラでプリント用のインクを生地に押し当てて染める技法です。
にじみや染めムラが少ないため、細かいデザインの手ぬぐいや鯉口シャツに向いている染め方です。また、工程数が少ないため注染などに比べると安価に生地を制作することができます。
生地の裏まで染料が通らないため、裏面は白無地になります。
プリント捺染の作業工程
プリント捺染の技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
手ぬぐいや鯉口シャツのデザインに従って型を作ります。染めたい部分(色を付けたい部分)をくり抜きます。
【2】染める
白い生地の上に型を置きます。型の上からプリント用のインクを流し、ヘラでインクを生地に押し当てていきます。
【3】乾かす
インクを乾かします。
【4】完成
生地が乾いたら、完成です。
藍染め
藍染めとは
藍染め(あいぞめ)とは、白色の生地に藍(あい)という植物由来の染料を使って染める技法です。長年使用しているうちに色がだんだん落ちていき、藍本来の独特な風合いになります。何年もかけて法被を育てていく楽しみがある染め方です。
近年は藍染めの法被が作れる職人さんが減ってきているため、価格が高いですが、藍独特の風合いを好むファンが多い染め方です。
藍染めの作業工程
藍染めの技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
法被のデザインに従って型を作ります。染めたくない部分(色を付けない部分)をくり抜きます。
【2】糊付け
白色の生地の上に型を置きます。型の上から糊(のり)を流し、ヘラを使って染めたくない部分に糊を付けます。
【3】染料に漬け込む
藍の染料の中に生地を漬け込みます。
【4】洗う
藍の染料を生地に染み込ませたら、水で洗います。水に付け、空気に触れさせることで、藍独特の色になります。
【5】乾かす
水洗いをしたら生地を天日干しで乾かします。
【6】完成
生地が乾いたら完成です。
シルクスクリーンプリント
シルクスクリーンプリントとは
シルクスクリーンプリントはTシャツやパーカーなどの衣類へのデザイン入れでよく見かける染色方法です。型と呼ばれる穴が小さく空いたメッシュ状のスクリーンの上からインクを流し、ヘラで押さえつけることでデザインを転写します。
お祭りでは法被や鯉口シャツにデザインを入れる時に、よく使用される染色方法です。
最初に型を作ってしまえば、安価に法被にデザインを入れることができます。制作する数量が増えれば増えるほど、安くなっていきます。
また、既製品の無地の法被にプリントするので、納期も早いです。
インクも普通の色だけでなく、ラメ色も使用できるので、キラキラしたデザインの法被や鯉口シャツを作りたい場合はシルクスクリーンプリントがおすすめです。ただし、型の大きさが最大でA3サイズくらいまでなので、法被や鯉口シャツ全体に柄を入れるといったことはできません。
シルクスクリーンプリントの作業工程
シルクスクリーンプリントで生地にデザインを入れる時の作業工程を解説します。
【1】型を作る
デザインに従って型を作ります。最大でA3サイズくらいまでのデザインを入れることができます。1色につき1つの型が必要になります。
【2】プリントする
無地の法被や鯉口シャツの上に型を置き、インクを流し込みます。その後、ヘラで押さえつけて、インクを法被や鯉口シャツに転写します。
【3】完成
インクが乾いたら完成です。
インクジェット染色
インクジェット染色とは
インクジェット染色とは、白色の生地に、生地専用のインクジェットプリンターで染料を吹き付けて染める技法です。フルカラーで染めることができます。どんなに細かいデザインでも染めることができるため、複雑なデザインの法被や鯉口シャツ、手ぬぐいに最適な染め方です。極論を言いますと、絵や写真もフルカラーで生地に染めることができます。
また、法被や鯉口シャツ、手ぬぐいを1枚から制作可能なため、小ロットでの注文にも対応できます。
近年、職人さんが高齢化により減ってきており、どんどん染色工場が廃業しています。そのため、職人さんの勘と経験に頼らないインクジェット染色がお祭り業界でも主流になりつつあります。インクジェット染色で染めた生地を見てみても、他の技法で染めた生地との違いが分からないくらい技術が進んでいます。
ただし、注染などと違い、生地の裏まで染料が通らないので、生地の裏は白色になります。どうしても、裏まで染料を通したいという場合は、裏もインクジェット染色で生地を染めてしまうという方法もあります。
インクジェット染色の作業工程
インクジェット染色の技法で生地を染める時の作業工程を解説します。
【1】デザインデータを作る
インクジェット染色に型はありません。法被や鯉口シャツのデザインデータをパソコンで制作します。
【2】染める
生地専用のインクジェットプリンターで白色の生地に染料を吹き付けます。フルカラーで生地を染めることができます。
【3】乾かす
高温のボイラーで染料を乾かします。
【4】完成
生地が乾いたら、完成です。
インクジェット染色は洗濯できるの?
インクジェット染色と聞くと、紙に印刷する家庭用のインクジェットプリンターを連想してしまうため、「水に濡れたら色落ちするのでは?」と心配される方が多くいます。でも、っご安心ください。生地用のインクジェットプリンターは簡単には色落ちしません!
インクジェット染色は、染める工程はインクジェットプリンターという最新の機械を使いますが、使用している染料は本染めと同じものです。職人さんが手で染める時に使用している染料と同じものを使用しているので、色落ち具合は本染めのお祭り用品と同じぐらいです。
水に濡れただけで、柄がにじんでしまう!なんてことはありませんのでご安心ください。
ただし、顔料の染料を使用しているため、漂白剤を使って洗濯すると、色がはげてしまいます。インクジェット染色のお祭り用品を洗う時は、絶対に漂白剤は使用しないようにしてください。
まとめ
染色技法の違いによる染め方の工程の違いが分かりましたでしょうか?
ぶっちゃけたことを言いますと、注文の際にお客様が染色技法を気にすることはほとんどありません。お客様が希望する法被や手ぬぐいの内容をお祭り用品店にご相談いただければ、デザインや枚数に合わせて、最適な染め方をご提案しますのでご安心ください。
ただ、どのような作業工程で制作されたものかを知ると、よりお祭り用品に愛着が持てると思います。お友達や知り合いに、自分の町会や神輿会の法被や手ぬぐいを自慢できたりもします。
ぜひこの記事を参考にして、法被や手ぬぐいの理解を深めていただければと思います。
法被・手ぬぐいが注文できるお店
オリジナルデザインの法被や鯉口シャツ、手ぬぐいはお祭り用品専門店の祭すみたやで注文することができます。どのようなデザインがご希望なのかご相談いただければ、最適な染色技法をご案内させていただきます。メールや電話でもご相談を受け付けておりませんので、お気軽にご連絡ください。
祭すみたや 助信駅前店
〒430-0911 静岡県浜松市中央区新津町14-1
電話:053-489-3398
※ 遠州鉄道 助信駅から徒歩1分
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